私が初めてカシミールの手刺繍の生地とであったのは2003年のネパールででした。

ネパールのカトマンズ、外国人が集まるエリア「タメル」の中でカシミールから来たインド人が営む「手刺繍」の生地の商品ばかりを扱うお店。とても美しく、そして私好みのデザインや色目に圧倒され、どうにかバッグにしたい!と何度かそのお店に通いました。「生地が必要ならオーダーしてもらって数ヶ月待ってもらう事になる。商品を買わないか?」と持ちかけられたのですが、やはり”sisiのバッグ”にしたい私は「クッションカバーになる予定」という40cm x 40cm四方の刺繍が入れられた白ベースの生地を見つけ、それを100枚程購入しました。 それを斜めにカットしてハギレはコースター(少し使いづらかった。)にしてその年、初めて”sisiのカシミール刺繍バッグ”が出来上がりました。

その後は生地を作ってくれているサプライヤーさん探しに苦戦し、やっと今の工房さん”toshkhana"さんに辿り着く事が出来ました。 世界は狭い(そして広いのですが)、インターネット上で探し当てた工房の社長さんと「本当にちゃんとお会い出来る」のですね! 国内で、それも日本なら当然の話なのですが、日本、バリから遠く離れた、それもインドの北部、パキスタンとの国境付近の街「スリナガル」で約束していた私たち。とてもダンディでインテリジェンス溢れる前社長さんにお会いして布への熱い想いを直接聞かせて頂きました。

「インドは安いでしょう?安い生地を欲しいのだ、と言われ期待されるのは心外です。私たちは誇りをもって手工芸を世界の人々に知って欲しい。大量生産している訳では無いのです。安いだけのものが欲しいならここに来るべきではないのです」と最近起こったトラブルの話をして下さいました。 私と一緒だったキャップこと鷲尾さんも「本当にそう思います。バリも安いんでしょう?だから頼んでいるんだ、というだけの方とは仕事はしたくない。バックグラウンドもちゃんと理解してそしてその想いを受け取って欲しい」と。あぁ、こうしてこんなに離れた場所で、異なる言語で、しかし同じ想いをここスリナガルで共有し合っている。
私たちがカシミール地方へ出張で行く、と決めた際、数人に「紛争地帯、大丈夫なの?」と心配して声かけして下さいました。そう、メルマガにも書いたのですがここはパキスタンとの国境付近、さらにカシミールはインドからの独立運動もあり、治安が不安定な時期が。 「ここ数年すっかり落ち着いて、観光客も戻ってきていますよ、是非来て下さい」と工房の社長、そして宿泊先の方からも言われ。更に私がいつも行っているバリの布問屋街でお店を営むインド人夫婦が2ヶ月前に行ったわよ、全く危険な事は無く、とても素晴らしかった!と背中を押してくれました。
キアヌリーブスばっかりだった!と私たちの極端な感想ですが、端正な顔立ちの人も多く、皆恥ずかしそうに佇み(女性はイスラム教徒の戒律が厳しいのもあり、気軽に外には出ないようです)高原らしくお野菜や美味しそうなフルーツ、苺などが朝市で売られていました。 名産の「ピスタチオとサフラン」を使ったアイスクリームが食べてみたい!と買おうとすると一緒にいたスタッフさんが「おススメがあるんだから!」と私たちを連れて行ってくれました。
真面目な、素朴で寡黙な印象の人々。多くの自然、雄大な景色と気候。「冬は好きーが出来るから今度は子どもたちを連れてきては?」という素晴らしい美声で私たちを歓迎してくれた宿のお父さん。

私たちがあの地を離れた数ヶ月後にバスの襲撃事件が起きました。 やっと静かな時間が戻ってきた、と喜んでいた地元の人たちの嘆く姿が目に浮かび、すぐに連絡出来なかった程です。

お願いした生地は少し納期は遅れたもののスムーズに仕上がり、毎度の事ではありますがインドネシアサイドの受取りの際の少々のトラブルはあったものの2013年はしっかりバッグにする事が出来ました。

翌年、2014年デリーのオフィスで出会った新社長は若く、エネルギッシュな印象のMAJIDさん。「国境付近の問題なんてあの大国が火種をまいているんだ、世界中、隣国と仲良く出来ないようにあの国がしているんだ。そんな事に振り回されているのは愚かな事だ!」と激しく怒り、強面でもあるので周りの人たちが驚いている程でした。 そうだそうだ!と私も同意。しかし、日本の比では無いのでしょう、彼の怒りは。
やや遅れながらも順調に出来上がりつつあったsisiの生地の出荷を遅らせたのは「過去に無い程の大洪水」でした。

「まるで津波のようだった」と街を飲み込んだ洪水の様子を聞きました。 かける言葉も無い程の悲劇に、私は「遅れても良いからきっと布を届けて。その想いをちゃんと私は皆さんに伝えるから。私が出来る事はここでするから」と約束するしかありません。

工房で出会った優しく笑う年老いた職人さんたち、私が冗談を言うとビックリした顔で「笑って良いの?」と戸惑っていた若い若いスタッフ。 そんな皆さんがどうぞ心安らかに日々が過ごせますように、私はここでこうして美しい人と手工芸と彼らの生活をご紹介するしか出来ませんが、せめてこういう機会が持てた事を嬉しく思っています。

写真はすでに小さく加工してしまったのもあり、画像が少し荒いのでがご了承ください。本当のカシミール、スリナガルはその目で見て感じてもらうしかない素晴らしさです!私もまた必ず行きたい、と思っています。

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